大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(う)1714号 判決

被告人 鶴田幸次

〔抄 録〕

一、原判示第一及び第二の事実(原審相被告人三浦秀康よりの収賄関係)について。

被告人が大蔵省印刷局製造部施設課(以下単に施設課という)の長として、原判示のごとく、印刷用機械器具等の所要計画の樹立、これに伴う購入要求及びその配置調整の事務を所掌していたものであることは、被告人が原審第三回(昭和三一年九月五日)公判廷において自認しているばかりでなく、大蔵省組織規程第四一条及び印刷局組織規程第六一条、第六二条によつて明白であり、また機械器具の調達及び不用物資の払下が、いずれも、同省同局業務部資材課の職務権限であることはまことに弁護人所論のとおりである。ところで、原審証人吉野貞男及び同松村寿太郎の供述記載並びに押収の証拠書類などの関係証拠によつて明らかなごとく、施設課においては右資材課主管の事務に関連して、機械器具の購入に関しては、印刷施設(機械、器具)所要計画樹立の立場より、各工場などからの要求を検討して購入のための仕様書を作成し、購入要求書をつけてこれを資材課にまわして調達の起案をうながし、不用物資の払下については、印刷施設の配置調整の立場より、原議においては合議に参加し、不用品組替の手続を行うなどの事務を取扱つているのであるが、これらは前示組織規程にもとずく施設課固有の職務権限であつて、これを単に資材課主管事務に事実上関与するにとどまるものとみるべきではない。であるから機械器具の調達、または不用物資の払下に関連して、施設課長たる被告人と、納入者または払下を受けた業者との間に職務上の関係が存在することはまことにありうることであつて、その存在はあり得ないとする所論には賛同できない。また所論朝陽会関係については、本件古輪転機の払下が形式上は同会社名義で落札するのであるが、実質上は鳳和工業株式会社においてこれが払下を受けるように仕組まれたものであることは証拠上明らかであるから、同会社の社員である原審相被告人三浦と施設課長たる被告人との間に職務上の関係の生ずることのありうることはもちろんであつて、これを否定する所論は採るべきではない。

二、弁護人小泉英一控訴趣意第四点に対する判断。

原審公判調書に刑事訴訟法第二九一条所定の検察官の起訴状朗読、並びに被告人に対する黙秘権及び権利保護の告知の手続が履践された旨の記載がないことは所論のとおりである。しかしながら右各事項はいずれも刑事訴訟規則第四四条で公判調書に記載を要するものとされてはいないのであるから、調書簡易化の建前から、それらの記載を省略するのを通例とし、その記載がないからといつて、ただちに原審においてこれらの手続が履践されなかつたとは認められない。これを原審公判調書についてみるに、被告人及び原審相被告人等に対する人定質問がなされ、被告人などが起訴状記載の公訴事実に対して陳述をした旨の記載があり、とくにその陳述が公訴事実の冒頭及び各犯罪事実にわたつて比較的詳細に述べられていること、なかんずく、原審相被告人後藤の第二回公判調書(本件記録第二冊第一七丁以下)に「只今朗読された公訴事実は全体としてはそのとおり相違ありません」と記載されているのに徴すれば、同人関係の起訴状(これは被告人にも共通のものである)が朗読されたことは明らかであること、そしてその他の所論各事項についても、それらが実行されなかつたものとみるべき跡(たとえば被告人や弁護人の異議申立など)の存しないことなどに徴すれば、むしろそれらの手続は他の一般の場合と同様に履践せられたものと推認せられるのである。しからば原審には所論のごとき訴訟手続に法令の違背はなく、刑事訴訟法第三三五条及び憲法第三一条に違反する廉は存しない。もしそれ、所論各事項はいずれも公判期日における審判に関する重要な事項であるから、刑事訴訟規則第四四条に公判調書の必要記載事項として掲げられるべきであり、昭和二六年一一月二〇日の同規則の改正によりこれを削除したのは、規則をもつて法律を変更したものであるから、この部分については無効であつて、改正前の規則が厳存するものである旨の主張にいたつては、ひつきよう、刑事訴訟法第四八条第二項にいう「公判期日における審判に関する重要な事項」の意義についての独自の見解にもとずくものであつて賛同しがたいところである。けだし、右「重要な事項」とは、ことがら自体からみて、訴訟上重要な意義をもつ事項をいうのではなく、とくに公判調書に記載しておくことを必要とする事項と解するのが相当であり、所論各事項のごとく、これを公判調書に明記しなくとも、一般に行われることの当然推定される事項については一々履践されたことを明記する必要がないとしたものであつて、右は法(刑事訴訟法第四八条)が、公判調書の必要的記載事項の定めを最高裁判所の規則に委ねた趣旨に反するものではなく、またなんら憲法及び刑事訴訟法の規定または根本精神にもとるものでもなく、規則をもつて法律を変更したことにはならないことは明白であるからである(最高裁判所昭和三〇年一二月九日判決参照)。かくして原判決が憲法第三一条第一一条第一二条に違反する旨の所論は排斥せらるべく、該論旨は理由なきものである。

(尾後貫 堀真 奥野)

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